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『瀬戸のわん船』◯西野真由美の社長ブログ

盛重ふみこさんの『瀬戸のわん船』ができました。
前作『神宿る島』は、伊予の国や瀬戸内海を舞台に繰り広げられる古代の長編ファンタジーでした。
今度の『瀬戸のわん船』(吉野晃希男絵)には、「瀬戸のわん船」と「かなしき兄妹」の2篇を収めてられています。
タイトル作品「瀬戸のわん船」は、江戸時代の船乗りの若者、茂太が主人公。
金毘羅さんの祭で、ヤクザ者に絡まれている娘を助けた茂太。
そのるいを、いつかは嫁にもらいたいと、一途に仕事に励む茂太。
複雑な潮流と、島やはえ(岩礁)が多い難しい瀬戸内海。
まもなく帰港と心浮き立つ船を、突然立ち込めた深い霧が覆い、海坊主の化け物が襲いかかるが、茂太の度胸と機転で難を逃れる。
金毘羅さんの祭や富くじなど、伊予ことばを散りばめながら、情景や風俗も細やかに描かれます。
祭のざわめきが印象的な、爽やかな短篇です。
ちなみに、瀬戸のわん船商法は、割賦販売の始まりだそうです。
もう一篇の「かなしき兄妹」は、古事記にある数行の記述をもとに書かれた中篇。
時代はグッと遡って、古代、上代の物語です。
同母の兄妹の、許されない恋。
衣服を通しても、その美しさが光のように突き抜ける、ソトオシノイラツメ(衣通郎姫)とも伝えられる妹ヒメ(大郎女オオイラツメ)と、凛々しく才知に長けたヒツギノミコ(皇太子)との悲恋。
古代であっても、道を外れた恋は、許されるものではなかったのです。
手を取り合って山の中へと消えていく二人に、静かに雪が降りかかります。
江戸時代や古代を描く物語から、時をこえた歴史の世界が、人々の暮らしを纏ってイキイキと見えてくる作品です。
西野真由美

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