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銀の鈴社は、〈花や動物、子供たちがすくすく育つこと〉を願って活動しています

『俊介とおばあちゃんの竜天山』◯西野真由美

『俊介とおばあちゃんの竜天山』(中村千鶴子作)のご紹介です。
パパとママ、5年生の琴美おねえちゃんとマンションで暮らす俊介は2年生。
一人着らしの田舎のおばあちゃんが怪我をして、一緒に暮らすことになったところから物語が始まります。
山もなく自然に乏しい街中の暮らしで、おばあちゃんは頑なに殻にこもるようになってしまいます。
やがて少し離れた大きな林の奥にある<なごみの家>という施設へ入ることになったおばあちゃん。
訪れた俊介や、幼馴染のとみちゃん等との交流から、前を向き始めるあきおばあちゃん。
できなくなったことを数えて嘆くより、できることを見つけて始めてみよう。
なごみの家の仲間にも呼びかけて、止まっていた時間が動き始めます。
核家族化で、年をとっていくこと、その過程を身近に知らない子どもたちが、年をとって弱った老人を受け止めることの現実。
それは、大人も同じです。
年老いたおばあちゃんにも、溌溂とした子ども時代があったんだという発見。
圧巻は、竜天山となった林で繰り広げられる俊介とおばあちゃんとの世界。
板絵画家の有賀忍さんの伸び伸びとした世界が、豊かな自然を彷彿とさせてくれます。
有賀忍さんは、かつてNHKの「おかあさんといっしょ」の<こんなこいるかな?>のキャラクターでも有名ですが、本来は板絵画家。
木肌のぬくもりをいかしたあたたかな世界で、物語を彩ります。
老いた己への歯痒さに頑なになる孤独な老人と、空想力と純粋な優しさをもつ少年を深く結びつけたのは、大きな木が生い茂る、竜天山のような林でした。
子どもはもちろんですが、加齢を感じはじめた大人や、老いを前に無力感に苛まれている方にも、ぜひ読んでいただきたいと思います。
西野真由美

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