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銀の鈴社は、〈花や動物、子供たちがすくすく育つこと〉を願って活動しています

『ゆずりは』○西野真由美

新谷亜貴子作『ゆずりは』が刊行されました。
処女作『君の声が聞こえる』につづく2作目の小説です。
「おくりびと」という映画がありました。
納棺氏という仕事の存在を、私はそれで知りました。
葬儀を司る仕事の尊さをあらためて痛感する作品です。
本作の冒頭は、葬儀社の面接会場。
茶髪にピアス。粗雑な言葉に折り目のない態度。
チャラ男と呼びたいような高梨歩に、会社は当然のように不採用の決定をだそうとします。
その時、主人公の水島は、なぜか気掛かりになって、自分が責任を持って指導しますからと、採用を願いでてしまうのです。
無防備な心のままにぶつかってゆく高梨によって、いくつもの葬儀、その死と生が、葬儀という儀式をこえてオムニバスで語られます。
遺された人に寄り添って故人を悼む高梨。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの高梨の言動が、妻の自死で頑なになっていた主人公や周囲の人々の心をほぐし、解き放っていきます。
ゆずりはのように命のバトンをつなぎながら様々な人生を描きだす本書は、読後、心の中に小さな温石(おんじゃく)をそっと置いてくれるでしょう。
とても小さな温石ですが、静かにじんわりとあなたの心をあたためてくれる作品、 それが『ゆずりは』です。
西野真由美

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