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銀の鈴社は、〈花や動物、子供たちがすくすく育つこと〉を願って活動しています

平成の立原道造○西野真由美

火星雅範詩集『ささぶね うかべたよ』(ジュニアポエムNO.23 )のご紹介です。
印刷所から届いた刷りあがったばかりの一部抜きを手にして、編集長は言いました。
「現代の立原道造だわ」と。
蒼く澄んだ透明な水底のような哀しみと、まっすぐにのびた一筋の眩い白い光のような祈り。
優しさに満ちたこの詩集には、そんな色を感じます。
火星さんは、わずかに自由が効く舌で、キーボードを手繰るそうです。
脳性麻痺。
中国東北部で生まれ、二歳で母を亡くし、父と日本へ引き揚げる船中で高熱を発して以来、と。
重く厳しい来し方を前に、言葉を失います。
火星さんは、いつもカラフルなハンチングを斜めに被って、車椅子で現れます。
いつもにこやかな笑顔を絶やさない火星さんですが、私の言葉に強く心を動かされた時に、感極まって涙をうかべ、身体を仰け反らせて共感、共鳴を示してくださったことが何度かありました。
その度に、いつも付き添っている若者が、すぐに火星さんを抱いて、車椅子から落ちないように守ってくれるのです。
彼の純粋なリアクションと、その行為の重さとに、私は立ち尽くしてしまいました。
けれども、それだけではありません。
なにより私が心打たれたのは、彼の詩に対する、ご自分の作品に対する態度です。
揺るがない心棒を持ちながら、あくまでもしなやかさを忘れない。
他者の見方や感じ方を拒絶せず、謙虚に許容する姿勢を、彼はこう言いました。
「(拒絶していたら)作品の幅が広がらない」と。
作品は、発表された時から作者のもとを羽ばたいていくものです。
読者は、作者の想いをそのままに受け止めてくれる人ばかりではありません。
様々な受け止め方を許容する、あるいは認めることで、作品も作者も育っていく。
本は子どもと同じ。
子育ては、親育てでもあるのです。
私たちの常の想いを、火星さんは一言で表現してくれました。
挿画は、西川律子さん。
『もうひとつの赤ずきんちゃん』、『もうひとつのかぐや姫』、二冊の絵本の作者です。
完全な抽象ではないけれども、具象でもない。
そんな間(あわい)の表現で、火星さんの作品世界を描いてくれました。
火星雅範詩集『ささぶね うかべたよ』は、信仰と愛のまなざしに満ちた詩集です。
西野真由美

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